『Rose à cinq roues / deux』~旅をする本~

こんにちは、ピースボートセンター横浜のボランティアスタッフのトリです。

今日は私が最近読んで猛烈に感動した、「旅をする木」という本をご紹介します!

旅をする木 / 星野道夫

この本は1996年に亡くなった、星野道夫さんという写真家さんの随筆本です。
と、まとめるには恐れ多い、33篇からなる人生という名の旅路を描いた、旅行奇譚です。

彼はアラスカの大地に魅せられその地へ移り住み、そこで過ごした18年の歳月の思い出を基に、彼が実際に訪れた土地での出来事や、思い出深い出来事について、語り口で綴っています。

広大な大地のその先で出会った人々、風景、歴史に想いを馳せながら、幾度となく心に刻み、昇華させたであろう、彼のあまりにも素朴で味わい深い言葉たちは、自然と私たちに彼の感じた世界のあり方を感じさせてくれます。

 

33編の小エッセイを通し、彼がアラスカに発つに至った理由や、そこから派生して行った出来事、出会った人々、知り得た世界について、川の流れの様に綴り、ありのままに掬い取り、私たちに共有してくれています。

例えば、

・アラスカで冬ごもりをしているクマの発信器を取り替える為に巣穴を探した話

・彼が好きな地図の歴史と黒潮を巡るゴーストシップ

・アラスカに漂流したと言われる日本の長者丸という漂流船にまつわるトーテムポールの伝説。

・リツヤベイと呼ばれる人里離れたアラスカの入り江で暮らす、たった一人の世捨て人の話。

どの話をとっても、少なくとも私の知らない世界や風景、情熱を、彼の経験を、彼は全て追体験させてくれます。

 

彼はこの様な話を通し、自然と動物、生と死、世界と社会と人の繋がり、生命の在り方に対する彼なりの見え方について、感覚的な思いを言葉にしています。

 

その中で特に心に残ったのは、以下の引用文です。

“私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない”

彼は忙しない日々を送る人々の中で、この感覚を持ち合わせている人とそうでない人では、随分と違う、とそのあとに続けています。

 

今私たちが過ごす日々の中に、

多様な自然や文化、生き物としての日々の営みを尊み、雄大な世界を感じさせてくれる経験は、あまり身近にあるとは言えないかもしれません。

しかし、それらは決して遠い土地にあるわけではなく、

日々の中に、自然を経験したことのある全ての人々の心の中にあるのだということを、その原体験と共に、この本は私たちに思い出させてくれます。

 

”大自然の中では、こんなに私は小さいんだ。

この目で、この体で、“小さな自分”を感じるために、旅をするのだと改めて感じました。“

 

ピースボートを通し世界一周を夢見る人、既に世界一周を終え、新たな旅への準備を進めている人、。旅の途中にいる人。

きっと誰もが一度は問うたであろう、なぜ人は旅をするのか、という疑問。

私たちにとって、旅とは何か、世界の美しさとは何か、自然や動物、人や文化の面白さとは何かを、何度でも問いかけて、何度でもその奥深さについて、噛み締めさせてくれるのが、この本です。

ぜひ、次の旅に出る前に、もしくは旅路のお供に、ご一読ください。

 

 

 文 花田陽(トリ)